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茨城県教育委員会は法律よりも「上司の命令」を重視するのか?

更新日:2020年12月26日

2020年5月23日


 こんにちは。代表のYです。この記事では、今年二月に茨城県教育委員会(以下、県教委)に送付した質問書について改めて紹介させていただくと同時に、先月届いた県教委からの回答書を公開し、解説を加えていきたいと思います。

 

目次

  ● 問題だらけの部活動制度を変えるために

  ● 2019年の県教委回答

  ● 弁護士の助言をふまえた質問書の作成・提出

  ● 県教委「上司の命令には従わなければならない」

  ● 今後BMTIに求められる対応とは

 


問題だらけの部活動制度を変えるために


 私たち茨城部活動問題対策委員会(BMTI)についてご存知でない方も多いと思われますので、まずは団体の趣旨を簡単に紹介させていただきます。

 「部活動問題」というと、学校の部活動における勝利至上主義や体罰の問題がかねてより取り上げられてきましたが、これらとも関連しつつ近年注目を集めるようになってきたのが「学校教員に部活動指導をさせること自体が問題だ」という発想です。学校教員に勤務時間外に及ぶ部活動指導を「ボランティアとして強制」している国は他に類を見ないからです。教員の長時間労働が社会問題化したということもあり、まずは教育課程外で教員の本務ですらない部活動を外部化すべきとの声が高まっています。それは学校教育の質改善にも、良好なスポーツ・文化活動の機会創出にも有効であると言われています。今、私の手元には2017年に出版された三冊の部活動関連本[※1]がありますが、それら全てが上記の問題を取り扱っています。

 私たちはBMTIは、部活動改革を求める世論の高まりにもかかわらず表面的かつ形式的な「改革」に終始する教育行政、そして前例踏襲ばかりで危機感に欠ける学校現場を何とかしたいという思いから結成された市民団体であり、「県内教員が部活動顧問への就任を強いられることのない環境を実現する」ことを第一の目的としています。すでに、法律を武器に部活動顧問への就任拒否を学校現場で実践し成功を収めている教員は全国に点在していますが、部活動制度が根本から見直されるようになるためには、顧問を「する・しない」の選択権が全ての教員に対して保障されなければなりません。まずは個々の学校および教員を管轄する教育委員会に「部活動顧問への(事実上の)就任強制は違法である」と認めてもらう必要があると考え、私たちは県教委とのやり取りを重ねて参りました。



2019年の県教委回答


 県教委の担当課の方々には、2018年に面談の機会を二度設けていただきました。私たちの問題意識を伝えた上で、部活動問題や「学校における働き方改革」に関する県教委としての認識と意向を尋ねましたが、残念ながら私たちの期待に添うような回答は得られませんでした[※2]。そこで、教員に部活動指導をさせることの問題点を改めて整理しつつ、「教員に部活動顧問への就任を強いてはならない旨の明確化」を求める要望書を提出し、文書での回答をお願いすることにしました。

 2019年5月27日に県教委からの回答文書が届きました。しかし、その内容は無責任かつ不誠実としか言いようのないものでした。「部活動顧問を含めた所属職員の校務分掌については、茨城県県立学校管理規則に基づき、校長が定めるものとしております」と述べることで各学校に責任を丸投げし、仕舞いには在校時間管理や学校閉庁日の取り組みへと話を逸らすものだったのです[※3]。この回答にはツイッター上でも多くの批判が集まりました。以下はその一例です。




弁護士の助言をふまえた質問書の作成・提出


 こうした回答を受けて、私たちは「どうすれば県教委は真摯に回答してくれるだろうか」と考えました。そして、二つの方策を採ることにしました。一つは、要望書ではなく質問書の形で、部活動顧問への就任強制の違法性について直接的に質問することです。もう一つは、顧問への就任強制が違法であるということについて、法律関係の専門家のお墨付きを得た上で質問することです。そうすれば、県教委もさすがに無下な回答はできないだろうと考えました。

 様々な伝手をたどった末、東京法律事務所の江夏大樹弁護士と川口智也弁護士に相談させていただくことになりました。お二人は、「部活動顧問への就任強制は違法である」というBMTIの見解に同意を示してくれたばかりでなく、顧問への就任強制が違法であることを示唆する貴重な裁判例までご紹介いただきました。また、両弁護士とも「教員が部活動から解放されることは教員だけでなく生徒にとっても望ましいのではないか」というお考えであり、精神的にも勇気づけられたことを覚えています。最初の相談以降も、メールでのやり取りを通じて質問書の内容に何点かご助言をいただきました。

 そのようにして完成したのが、「公立学校教員に対する部活動顧問の就任強制に関する質問書」です。顧問への就任強制は「公教育の質の維持・向上」と「労働者としての権利の擁護」という二つの観点から「一刻も早く禁止されるべきである」とした上で、教員は「部活動顧問への就任を拒否することができるか」を直接的に尋ねました。本文中では、教員が部活動顧問としての職責を果たすためには時間外勤務が欠かせないということ、そして時間外勤務を前提とした職務命令はいわゆる「黙示の超過勤務命令」に当たり違法であるということを詳細に論じました。

 質問書は、県教委に送付すると同時にHPおよびツイッターにて一般公開しました。質問書について言及したツイートは、問題関心を同じくする多くの方々の関心を集め、100件を超える「いいね」が付きました。また、部活研究を専門とするスポーツ社会学者の中澤篤史先生からも、「『部活動は明らかに定時を超える業務なので、校長は顧問を職務命令できない(=教員は拒否できる)』という見解は、行政も認めざるを得ないと思いますよ」というコメントをいただきました。



県教委「上司の命令には従わなければならない」


 質問書の送付から約二ヶ月後に県教委からの回答文書が届きました(文書には令和2年4月14日と記載されていますが、実際に回答がなされたのは4月22日です)。一つ目の質問に対する回答が重要ですので、全文を掲載させていただきます。



 まず、冒頭の「令和2年」は「令和元年」の間違いでしょう。それはともかく、質問書であれほど詳細に顧問への就任強制は違法である旨を論じたにもかかわらず、そのことに関する記述は一切なく、「職務である以上は原則として,上司の命令には従わなければならない」と回答しているのです。県教委は法律よりも「上司の命令」を重視しているのでしょうか? そのような疑いを持たれても仕方のない回答であると言えます。ひとまず私たちは、県教委にメールで以下のような追加質問をしました。




今後BMTIに求められる対応とは


 昨年の要望書に対する回答に続き、質問書に対する県教委の回答はまたしても「回答になっていない回答」でした。もし追加質問に対してもゼロ回答を貫くようであれば、いよいよ事を大きくしていく必要があります。その具体的な方策について、私たちはつい先日検討を始めました。

 繰り返しになりますが、学校教員に勤務時間外に及ぶ課外活動を正当な対価抜きで事実上強制している国は、日本以外に聞いたことがありません。これまで放置されてきたこの「異常事態」は、直ちに解消されなければなりません。公立学校教員に時間外勤務手当を支給しないと定めた悪法が今すぐには変わらない現状のもとでは、「自発的な勤務の強制」という矛盾を取り除くことが唯一の打開策となるのではないでしょうか。

 最後に私たちは、私たちの活動に賛同してくださる方に一人でも多く本団体に加入していただき、現状を変えるべく一緒に活動していきたいと思っています。興味・関心がお有りの方は、団体規約をご参照の上、是非お気軽にご連絡ください(→HPへ)。




[注]

 

※1 内田良(2017)『ブラック部活動――子どもと先生の苦しみに向き合う』,東洋館出版社。中澤篤史(2017)『そろそろ、部活のこれからを話しませんか――未来のための部活講義』,大月書店。長沼豊(2017)『部活動の不思議を語り合おう』,ひつじ書房。

※2 詳しくは2018年4月14日投稿の記事および2018年9月30日投稿の記事をご参照ください。

※3 詳しくは2019年6月21日投稿の記事をご参照ください。


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