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県の「指導」は問題解決の特効薬となり得るか? 

2023年3月14日

 

目次 1.茨城県教育委員会が認めた「顧問強制」の違法性 2.今後予想される事態と必要な取り組み 3.部活動から「地域クラブ活動」への移行について

 

1.茨城県教育委員会が認めた「顧問強制」の違法性    

 ついに茨城県教育委員会(以下、県教委)が部活動顧問への就任を「強制しない」と明言した。当会が昨年11月にこの情報をツイッターで発信したところ、当該ツイートは瞬く間に拡散されていった。「顧問強制」に苦しめられている公立学校教員にとって、今回の県教委回答は朗報であったに違いない。



 さっそく補足しておきたいが、部活動顧問への就任を学校管理職が教員に「お願い」すること自体の違法性を問うのは難しい。しかし、当会が提出した請願書にも書かれているとおり、「お願い」を断ったことで当該教員が何らかの不利益を被るのであれば、それは実質的な強制に当たる。権利を行使した人間を低く評価したり(※1)ハラスメントの対象にしたりすることは、社会生活を営む上で当然許されないことである。このことは県教委との間でも確認済みなので、もし顧問への就任を拒否したことで何らかの不利益な取扱いを受けた場合は、お気軽にご相談いただきたい。  さて、県教委から上記の回答を得た後、「口頭ではなく、これまでどおり文書でご回答いただきたい」と要請したところ、後日メールにて回答文書を拝受した。そこには、「今後は、部活動顧問への就任が強制されることのないよう、県立学校長及び市町村教育委員会に指導してまいります」との文言が含まれていた。ところが、二か月後の2023年1月中旬になっても当該指導が行われていないことが、複数の県立学校長への聞き取りによって明らかになった。そこで、県教委の担当者に「指導」のスケジュールについて電話で質問したところ、「2月10日以降に中学校を対象とした会議を行う予定があり、その際に、部活動の顧問の依頼をする際にはそれぞれの意向をよく伺って強制することのないよう、学校管理職に話をする」「県立高校の校長に対しても、3月の人事が始まる前には口頭で周知をしていく」との回答をいただいた。その後、2月下旬に「中学校への指導については文書での通知に変更する」という連絡があった。県教委の義務教育課から県内の市町村教育委員会に通知が発出され、そこから各市町村の中学校等に情報が下りていく形となる。文書の詳細は検討中だが、3月中には通知するとのことだった。



2.今後予想される事態と必要な取り組み


 すでに県内の多くの学校では、来年度の部活動顧問を決定するための希望調査が行われている。この希望調査自体に「顧問強制」の要素が含まれているケースがほとんどであるため、県教委はもっと早いタイミングで指導を行うべきだったように思う。おそらく来年度の顧問決定に当たっては、従来どおりの強制・強要が横行している可能性が高い。しかし、教員が校長に顧問への就任を希望しない旨を伝えれば、校長は当該教員への顧問強制を思いとどまるはずである。もし就任を拒否したにもかかわらず強制されるようであれば、すぐに当会にご相談いただきたい。当会のもとには、来年度の顧問就任を拒否したい方からの相談がすでに3件寄せられており、適宜メールやZoomでの対応を行っている。



 では、再来年度(2024年度)についてはどうだろうか。さすがにそれまでには教員への顧問強制はなくなっているだろうか。当会は、全くもって楽観視はできないと考えている。もし国や県の「指導」が学校現場に決定的な影響を与えるのであれば、今頃は「働き方改革」によって教員の業務は明確化・適正化され、勤務時間も大幅に縮減されているに違いない。「教員に顧問への就任を強制してはならない」という指導がいくらコンプライアンス上の要請を含むものであったとしても、残念ながら県の指導が自然と学校現場に浸透するとは思えない。何よりも、「全員顧問制」等によって維持されてきた従来の部活動を、校長(会)が簡単に手放すだろうか。「強制」という文言が恐ろしいほど狭く解釈されて、事実上の強制や強要が横行するような気がしてならない。  ここで参考になるのが、茨城県牛久市にある東洋大学付属牛久中学校・高等学校における取り組みである。部活動の負担に苦しめられてきた当該校の教員が私学教員ユニオンという労働組合に加入し、運営法人との団体交渉を行った結果、「部活動顧問の任意制」が導入されることとなった(詳細はこちら)。私学の事例とはいえ、公立学校でも似たような実践は可能であるに違いない。すでに、愛知県・三重県・福岡県では部活動問題に特化した教職員組合が結成され(※2)、顧問拒否のサポートをはじめとした様々な取り組みを行っている。教員1人が出来ることは心理的にも制度的にも限られているが、2人3人と仲間が増えていけば現場を動かす大きな力となることは間違いないだろう。また、当会としては校長の主体性にも期待を寄せたい。部活動問題の解消を図ることを、コンプライアンス上の問題への対処という観点だけでなく、後述するように持続可能な教育環境の構築という観点からも深く理解した上で、抜本的な見直しを図っていただきたい。



3.部活動から「地域クラブ活動」への移行について


 周知のとおり、国は「部活動の地域移行」を積極的に進めていく方針を示しており、2023年度からの3年間を改革推進期間と位置付けている。少子化が進む中、学校単位では人数不足のために活動が成り立たないケースが増えていることに加え、「専門性や意思に関わらず教師が顧問を務めるこれまでの指導体制を継続することは、学校の働き方改革が進む中、より一層厳しくなる」(※3)ことから、生徒のスポーツ・文化芸術活動の場として新たに「地域クラブ活動」を整備する必要があるとされている。茨城県もまた、国の方針にいち早く共鳴する形で、部活動の地域クラブ活動への移行を推進しており、今年2月には「茨城県地域クラブ活動ガイドライン」を発表した。以下は、当該ガイドラインからの抜粋である。


p.3「はじめに」より


p.18「おわりに」より


 地域クラブへの移行に向けた課題として頻繁に口にされるのは「指導者不足」「受け皿不足」だが、当会はそれ以上にステークホルダーの執着こそが改革にとって最大の障壁であると考えている。これまで何十年と続いてきた「部活」という(中学生・高校生年代のスポーツ・文化活動を学校教員が勤務時間度外視で指導する)日本特有の文化を手放すことは、それによって何らかの利益を得てきた各方面の人々にとっては受け容れ難いことであるに相違ない。しかし、今この少子化の局面において従来の部活動を存続させようとすることは、生徒への入部強制や教員への顧問強制などの人権侵害をさらに深刻化させかねない(それらが日に日に許されなくなっているにもかかわらず!)。学校における入部強制や顧問強制に異を唱えると「部活動が成り立たなくなってしまう」ことに不安を覚える教員も多いだろう。しかし当会としては、人権侵害を前提とした活動を維持する側に回るのではなく、地域クラブ活動への移行をはじめとした「未来のブカツ」への転換を推し進める側に回っていただきたい。  来年度も当会は、「茨城県内の教員が部活動顧問への就任を強いられることのない環境を実現する」という目的の達成に向けて、様々な取り組みを行っていく予定である。しかし、当会の力だけでそのような環境を実現することは難しい。とりわけ学校現場を変えていくためには、教員の方々による主体的な取り組みが欠かせない。当会としても、現状を「何とかしたい」と考えている先生方を全力でサポートしていきたいと考えている。繰り返しになるが、お気軽にご相談いただきたい。



 

※1 働き方改革に関する文科省通知(文科初第1437号)において部活動が「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」とされたこと等を踏まえて、茨城県教育委員会は教員評価における部活動の位置づけを見直した。以前は、「評価に当たっての着眼点及びその具体例」の中に「児童生徒の実態を踏まえた部活動指導に積極的に取り組んでいる。」という項目があったが、2021年5月の「教員評価の手引き」の改訂をもって当該項目が削除された。この件について県教委の担当者に問い合わせたところ、2021年5月の改訂以降は「部活動の指導をしないからといって評価が悪くなることはない」とのことであった。 ※2 教職員組合の名称は、それぞれ「愛知部活動問題レジスタンス(IRIS)」「三重部活動問題レジスタンス」「福岡部活動問題レジスタンス(PLUM)」であり、いずれの組合も「全国部活動問題エンパワメント(PEACH)」に加盟している。部活動問題に取り組む団体の全国組織であるPEACHには、前述の私学教員ユニオン、当会も加盟しており、地域・校種の垣根を越えた交流や協働を行っている。 ※3 スポーツ庁・文化庁「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(2022年12月)p.2より。


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