2019年6月21日
こんにちは。茨城部活動問題対策委員会(以下、BMTI)代表のYです。長らくお待たせしてしまって申し訳ございません。いよいよ本日、この記事にて茨城県教育委員会からの回答文書を公開させていただきます。「何の話?」という方も多いでしょうから、まずは今回の取り組み(要望書提出)の概要、提出までの経緯、要望書の内容について改めて紹介させていただきたいと思います。
どんな要望書?反響は?
私たちBMTIは、ある要望書を5月8日に茨城県教育委員会(以下、県教委)に提出しました。それは、「部活動顧問への就任を教員に強制・強要しないでください!」といった主旨の要望書で、提出時には教員の労働問題や部活動問題の専門家を含む多くの方から肯定的な反応がありました。
[出典]茨城部活動問題対策委員会(@bmti_ibrk)による5月4日のツイート
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」の委員を務めた妹尾昌俊氏もそのうちの一人で、「部活動の意義や効果は大きいかもしれませんが、だからといって、顧問をしたくない人まで強要していい、ということにはなりません」等のコメントを寄せていただいております。
[出典]妹尾昌俊(@senoo8masatoshi)による5月8日のツイート
また、私たちは部活動問題に関心のある方々にとっての語らいの場である「オフ会」を2ヶ月に1回ほど開催しているのですが、その場に参加していただいた茨城県教員の方からも、「身バレの恐れがあるので積極的な反応はできないけれど、陰ながら応援している」といった声をいただいております。
もちろん、今回の取り組みへの賛同者は、教員や教育関係者だけではありません。保護者や一般市民からの肯定的な反応も散見されます。後述するように、教員に部活動顧問への就任を強制・強要すること(以下、教員への顧問強制)は生徒にも悪影響を及ぼすものであり、そのことが徐々に知られるようになってきたのではないかと思います。とはいえ、まだ十分に周知されているとは言えない現状にありますので、私たちBMTIのような市民団体が今回のような取り組みを通じて問題のさらなる可視化を図っていきたいと考えています。
提出に至るまでの経緯
実は、私たちが県教委にアプローチするのは今回が初めてではありません。過去に2度、部活動問題についての認識や取り組み状況を尋ねる質問書を送付し、それぞれに対する県教委としての回答を聞いたり直接のコミュニケーションを図ったりするために水戸にある県庁へと足を運んできました。
貴重なお時間を割いていただいたことには感謝していますし、県教委の担当者が再三にわたって言及する「運動部活動の運営方針」の策定による練習日数・練習時間の制限等も無意味ではないと思いますが、肝心の質問、すなわち教員にサービス残業を前提とした部活動顧問への就任を強いることの可否を問う質問に対しては、「それぞれの学校の状況もあるので一律の規制は難しいと思う」「負担の軽減のためには顧問の複数化や練習時間の制限などいろいろ工夫できると思う」といった歯切れの悪い回答が続いていました[※1]。この点について、より突っ込んだ内容の質問を後日行なったところ、「そこまでは理解が及んでいない」「個別の問題はそれぞれやっていただいた方がいいかなと思う」という、監督官庁としては無責任きわまりない回答でした。
[出典]茨城部活動問題対策委員会(@bmti_ibrk)による昨年12月2日のツイート
行政機関としての誠実な対応を促すためには、市民社会からのより強力な圧力が必要であると考え、BMTIは今回の要望書提出および文書回答の要請に踏み切りました。
要望書の内容 -より良い教育環境を求めて-
要望書では、他業種と比べて突出した長時間勤務の実態がある教員に対し、本務外かつ負担の大きい部活動顧問への就任を強いることの問題点として、①生徒のためにならない、②法令に違反している、③国の政策に沿っていない、の3つを挙げました。それぞれについての詳細は要望書の本文(こちら)にてご確認いただきたいですが、ここでは特に①について補足しておきたいと思います。いくら追加賃金を支払う必要がないからといって、教員に部活動指導等の業務を押し付ければ、当然の帰結として教員は過労によって心身の健康を損ないやすくなりますし、授業準備や学級運営に費やすことのできる時間・体力も減ります[※2]。また、教員には各部活動を担当するための専門性が備わっていないことがほとんどであるため、生徒たちは良質な課外活動の機会を奪われており、何より安全面におけるリスクにさらされています。実際、本来であれば避けられたであろう事故が過去に何度も起きています[※3]。
こうした様々な問題を抱えている教員への顧問強制が「全員顧問制」などの形式を取りつつ学校現場で横行していることは、もはや周知の事実であるといえるでしょう。私たちは、個々の学校を超えた次元にあるこの問題について、教育委員会が主体となって対応に当たることを望んでいます。具体的には、「責任ある対応」として次の2つの取り組みを実行するよう、要望書の末尾で訴えかけました。
「2」については、若干の説明を要するかもしれません。「1」だけではなぜ不十分かというと、教員への顧問強制がなくなることによって、これまで教員の「無賃労働」によって支えられてきた多くの部活動の存続が危うくなってしまうからです。これは、生徒や保護者にとっては不測の事態としか言いようがなく、各学校および教育委員会としての対応なくしては、顧問に就任しない個々の教員がいわれのない批判にさらされてしまいかねません。そうした事態を招かないよう、県教委は教員の権利についての周知を図るとともに、教員に替わる専門人材の確保や部活動に替わる課外活動の場の設定などを率先して行なうべきでしょう。
県教委からの回答と所感
要望書を提出する際、私たちは県教委に対して一ヶ月以内の文書回答を要請しました。すると、提出の19日後である5月27日に、回答文書が添付されたメールがBMTI宛てに届きました。こちらがその文書です(代表者の氏名は黒塗りとさせていただきました)。回答として書かれている内容を整理すると、次の4点に要約することができます。
部活動顧問を含めた教員の校務分掌は、校長が総合的な判断の下に定めるものである。
茨城県で昨年策定された「運動部活動の運営方針」には、顧問である教員の負担軽減につながる取り組みについても明記されており、引き続き改善に努めるつもりである。
教員の勤務時間管理のために、茨城県では6月から「在校時間管理システム」の運用を開始する。
昨年度から、夏季休業中に学校閉庁日を設けており、期間中は原則として部活動も行なわないこととしている。
期限内に適切な方法で回答をしていただけたこと自体は評価できると思います。しかし、その内容にはBMTIメンバー全員が呆気にとられました。私たちの要望に対する直接の回答がどこにも見当たらなかったばかりでなく、私たちが提示した「三つの問題」についての言及すら一切なかったからです。しかも、後段では勤務時間管理や学校閉庁日の取り組みへと話題を転換し、あからさまにお茶を濁しています[※4]。
また、今回の回答でも、私たちBMTIが最も問題視している県教委の無責任な姿勢が確認できます。それは、「部活動顧問を含めた所属職員の校務分掌については、茨城県県立学校管理規則に基づき、校長が定めるものとしております」という箇所に表れています。各学校・各校長の責任を強調することによって、県教委としての責任を不問としたいのでしょう。しかし、「所属職員の校務分掌は、校長が定める」(茨城県県立学校管理規則第25条)ものであるからといって、地教行法で定められている教育委員会の管理・執行責任および使用者としての一般的責務が免除されるわけではありません。
改革を阻む障壁の除去へ
今回の県教委の回答は、残念きわまりないものであったばかりでなく、「要望書で問いかけている事項について言及できない何か特別の事情があるのだろうか」という疑念を新たに生じさせるものでした。
教員の「無権利状態」からの脱却、それが児童・生徒ひいては一般市民に与えている悪影響の除去、そして教員等の学校職員が各々の強みを生かすことができる質の高い学校教育の実現を求める動きは、すでに不可逆的なものとして始まっています。私たちは、茨城県がそのファーストペンギンになることを望んでいますし、そうすることで県としても優秀な人材をどこよりも早く確保できるというメリットがあります。近年、茨城県を含む多くの自治体で教員採用試験の倍率が低下し続けていますが、もし茨城県がどこよりも早く教員への顧問強制を廃すれば、その英断はたちまちネットを通じて多くの教員志望者の心をとらえるに違いありません。
ただ、県教委も多忙であることやその他「諸事情」によって教員への顧問強制を廃したくても廃せない状況にあるのだと推察されます。だからといって現状を放置してよい理由にはなりませんが、そうした事情を知ることで、変革を阻んでいる障壁の除去に向けて私たちにも何か協力できることがあるかもしれません。県教委職員の良心を信じつつ、今後も直接の話し合いの機会を持つことができればと思います。
[注]
※1 県教委との過去のやり取りについて、詳しくは昨年4月14日投稿の記事および昨年9月30日投稿の記事をご参照ください。
※2 髙橋哲氏(教育法学・教育行政学)が『法学セミナー』2019年6月号掲載の座談会で述べているように、「教師が超過勤務手当ももらっていないなかで働かされているような状況は、子どもの学習権侵害だということもでき」るのではないでしょうか。
※3 教員に部活動顧問を任せることのリスクについて、詳しくは内田良氏(教育社会学)による解説記事「素人に部活顧問を任せた責任は、誰が取るのか? リスク管理なき制度設計」をご参照ください。
※4 「学校閉庁日」はともかく、「勤務時間管理」については教員の長時間勤務の把握・解消にとって効果的であるようにみえるかもしれません。しかし、「仕事が遅いと思われたくないから」「管理職が早く帰れと言うから」「産業医との面談が面倒だから」「どうせ残業代は出ないのだから」等の理由で現場では過少申告や持ち帰り残業が横行するでしょうし、たとえ「勤務」が長時間に及んだとしても使用者側への罰則がないため、現在の法制度状況下での導入に果たしてどれほどの効果があるか、疑問に感じざるを得ません。また、昨年11月9日投稿の記事でも述べたように、勤務時間外の(自発的)勤務が当然視され、部活動指導等の業務が命じられやすくなるおそれもあります。
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