2023年6月9日
昨年12月、茨城県教育委員会は「茨城県部活動の運営方針」を改訂し、今年2月には新たに「茨城県地域クラブ活動ガイドライン」を策定しました。今年度は、いよいよ茨城県全域で本格的な部活動改革の火蓋が切られる1年になります。そこで、上記の運営方針およびガイドラインを題材としながら疑問や意見を出し合うスタイルの学習会を5月13日に実施しました。ゲストコメンテーターとしてお招きした八重樫通さん、日本地域部活動文化部推進本部(Pocca)理事長の齊藤勇さんをはじめとして、教職員、保護者、一般市民、スポーツクラブ関係者、自治体関係者といった様々な立場の方にご参加いただきました。
この記事では、参加者の方々から寄せられた貴重なコメントの数々を紹介できればと思います。「スポーツ・文化芸術活動と学校教育の双方を持続可能なものにする」(※1)ことに責任または関心のある方々にとって少しでも有益なものとなれば幸いです。
参加申し込みフォームの冒頭部分
学習会の前半は、「茨城県部活動の運営方針」を扱いました。主催者から運営方針のポイント解説を行った後、情報交換・意見交換の時間を40分ほど設けました。中心的な話題となったのは、やはり活動時間の上限設定についてでした。これは、授業を中心とした学校生活と家庭での生活のバランスを保つ観点や、教員の長時間労働の縮減に配慮する観点から、大会等の前であっても活動時間を上限の範囲内とすることを定めたものです。茨城県高等学校野球連盟が反対の意を表したことで話題となったこの上限設定ですが、今回の学習会の参加者からは茨城県教委の判断を支持する声のみが上がった形となりました。高校教員のAさんは、「1時間でもほどよい疲れが出る。平日2時間、休日3時間(高校は4時間)という県の方針は間違っていないと思う。生徒の頑張りを大事にしたい気持ちはあるが、やり過ぎた結果生徒の気持ちが折れてしまったのを見たこともある」とコメントしていました。一般市民のBさんは、「子どもを動かせる立場にあるのは大人の側。長時間やりたい生徒がいることを理由に無制限に活動することをOKにしていたら、勝つことしか考えていないような大人を規制できない」とコメントしていました。
運営方針には費用負担の見直しに関する記述もあり、これについて高校生と中学生の保護者であるCさんは、「PTA総会に参加して部活動の予算規模の大きさに驚いた。中学も高校も、部活に入っていない子を含む全生徒からお金を集めている。受益者負担であるべきだが、従来のお金の流れを変えるのは容易ではないと思う」とコメントしていました。高校教員のAさんは、「自分の知り合いの先生の学校では、そもそも部活動への加入が任意ではなく全員加入制になっている。まだまだ運営方針を守っていない学校が多いように思う」とコメントしていました。運営方針には、部活動への加入は任意であることについて生徒や保護者に周知徹底すべきことや、部活動に非加入の生徒からも徴収する生徒会費や後援会費を自動的に部活動費に充てるべきでない旨が書かれています。これらが全ての学校で徹底されるよう、当会としても目を光らせていく必要があると感じました。
学習会には様々な立場の方から参加申し込みがあった
学習会後半は、「茨城県地域クラブ活動ガイドライン」を扱いました。茨城県教委は、中学校だけでなく高校の部活動についても「地域移行」する方針を出しており、中学校においては令和7年度末まで、高校においては令和8年度末までに、休日の部活動に携わる教員をゼロにすることを目標に掲げています。本ガイドラインは、地域移行の手順や方法を市町村などに示す内容となっているのですが、県内某町の議員であるDさんからは、「教育委員会とも話したが、休日の部活を引き受けられる団体が少なく、地域移行に苦労している。人員を増やしながら学校での部活を継続する形では駄目なのか」といったコメントがありました。これに対して保護者のCさんからは、「受け皿がないという話だったが、少年団はないのか。自分の知り合いが中学校に部活の新設を依頼したところ、子どもの数も教員の数も減っていて難しいという返事だったため、中学生も少年団で活動している」といったコメントがありました。ゲストコメンテーターの八重樫さんからは、「そもそも部活動やクラブ活動は自主的・自発的なものなので、指導者が必要だというのは矛盾しているのではないか。様子を見てくれる大人がいれば十分。私が校長時代に地域移行に取り組んだ際は、民生委員に見守りをお願いした。受け皿がないのであれば学校でやればいいというのが私の考えだが、長時間労働で倒れる教員を過去に何人も見てきた。部活を今までどおりやっていくのは駄目だと思う」といったコメントがありました。この後も、地域移行の課題として最もよく耳にする受け皿不足や指導者不足について、多くの方から「発想の転換が必要ではないか」という趣旨の発言がありました。
高校教員のEさん・・・「そもそも部活は教育課程外で設置は任意ということから考えても、学校や地域によって部の数や種類に違いがあるのは当然のこと。指導者が確保できなくても保護者などが見てあげれば子どもたちがスポーツをする場はつくれるはずなのに、教員にばかり見ろ見ろと言うのはおかしい。部活がなくても子どもは死なないが、部活があることによって教員は倒れたり死んだりしている」
Pocca理事長の齊藤さん・・・「静岡県掛川市で地域部活動を始めて今年で6年目。最初の2年は外部の指導者を入れており、豪華な習い事のオンパレードだったが、後ろ4年は指導者を一切入れない形の活動を展開している。表現も制作も運営も全て中学生がやっており、大人は見守っているだけ。中学生は、子ども扱いせずに環境だけ整えれば自分たちでやる。地域移行には指導者が必要だという前提には疑問を感じる」
スポーツクラブ関係者のFさん・・・「一つのスポーツを続けるという前提で、その競技の指導者が地域にいないよねという話になっているのではないか。地域によって様々なスポーツ環境があっていいし、一つのスポーツを続けることにこだわる必要もないのではないか。自分も、特定の競技だけでなく遊びを含めた様々なスポーツを楽しめる機会をつくっていきたいと考えている」
スポーツ庁が作成したポスター(※2)の一部
時間の関係で十分に深められなかった論点もありましたので、今後も定期的に交流会などを開催していく予定です。最後に、学習会で挙がった様々なご意見を踏まえて、当会として取り組みたいと考えていることを3つ紹介させていただきます。
①活動時間に上限を設けることに対する積極的な支持 国が部活動の活動時間や休養日に関するガイドラインを策定したのが2018年ですが、とりわけ高校においてガイドラインの趣旨に反した長時間の活動が目立っています(※3)。その中で、茨城県教委が生徒の健康と生活を守るために厳格な上限を設けたことは評価できます。しかし、学習会の中で八重樫さんも述べていたように、高校まで踏み込んでガイドライン遵守を求めているのは今のところ茨城県だけであるため、一部の教員・保護者・生徒から厳しい批判に遭っていることも事実です。そこで当会としては、茨城県のような上限設定を行う自治体が続々と現れることを願い、そのような自治体の登場を促す取り組みを積極的に支持してまいります。なお、ガイドラインを度外視した活動を行いがちな私立学校を規制するためには、ガイドライン遵守を大会への参加条件とするような制度設計が必要ではないかと考えています。
②運営方針違反に関する相談窓口の開設 「茨城県部活動の運営方針」には、活動時間や休養日に関する事項だけでなく、任意加入や受益者負担など、部活動の適正化に関する事項が多岐にわたって書かれています。これらの趣旨に反する事例に遭遇した場合は、ぜひ当会にご連絡・ご相談ください。後日、ホームページ上にわかりやすい相談窓口(フォーム)を設置します。
③部活動の期限を明確化することの要求 「受け皿や指導者が不足しているから地域移行は難しい」という状況が何年もずるずると続いてしまうことが容易に想像できます。一方、静岡県掛川市は2026年度までに部活動を実質的に廃止することを明言しており、山形県や新潟県上越市は2025年度までに休日の部活動を原則行わないこととする方針を示しています。部活動の期限を予め明確にすることで、関係者の間で危機感が生まれ、受け皿づくりが加速するのではないでしょうか。茨城県または県内の市町村に対して、まずは休日の部活動だけでも期限を明確化するよう求めていきたいと思います。
(※1)「茨城県地域クラブ活動ガイドライン」(茨城県教育委員会,2023年)p.18より。
(※2)スポーツ庁の部活動改革ポータルサイトにおける「広報資料」からダウンロードできる「部活動の地域連携・地域移行ポスター」です。
(※3)例えば、「令和3年 学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」(公益財団法人日本スポーツ協会,2021年)を参照されたい。
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