教員が担う業務の明確化・適正化のために必要な施策とは何か?

最終更新: 2019年1月16日

2019年1月6日

この記事の要点

  • 中教審が提案する施策は使用者側に甘い。

  • 教委や校長の手による抜本的な改革は期待できない。

  • 業務の明確化・適正化に必要なのは労働条件の近代化である。


 あけましておめでとうございます。茨城部活動問題対策委員会(以下、BMTI)代表のYです。今回の記事では、教員の働き方改革における最重要課題ともいえる「業務の明確化・適正化」のためには何が必要かということについて、私たちの見解をお示ししたいと思います。


 現在、文部科学省(以下、文科省)の諮問機関である中央教育審議会(以下、中教審)で約1年半にわたって行なわれてきた「学校における働き方改革」についての議論[※1]が大詰めを迎えています。しかし、はっきり言って、そこで提案されている施策は不十分であるどころか事態の悪化をも招きかねません。(!)


[出典]文科省ホームページ



中教審案の評価できる点


 中教審の最終案[※2]には評価できる点もありますので、まずはそこから見ていきましょう。第1章、学校における働き方改革の目的が述べられた直後に次のような一文があります。「具体的には、(中略)膨大になってしまった学校及び教師の業務の範囲を明確にし、限られた時間の中で、教師の専門性を生かしつつ、授業改善のための時間や児童生徒に接する時間を確保できる勤務環境を整備することが必要である」。全くそのとおりだと思いますし、「目的の達成のためには教員の業務量それ自体を減らしていくことが最も重要だ」というメッセージがよく表れているのではないでしょうか。


 教員の業務量を減らすための具体的な施策については、第4章「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」に記述があります。ここで注目すべきは、これまで教員が担ってきた諸々の業務について、「本来は誰が担うべき業務であるか」という視点から個別に整理されていることではないでしょうか。例えば、私たちが問題にするところの部活動については、「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」の一つとして整理されています。今後、文科省が取り組むべき方策としては、①学校管理規則のモデル(学校や教員・事務職員等の標準職務を明確化)の周知、②業務の役割分担・適正化を着実に実行するための環境を整備するための確実な条件整備、③市町村別に働き方改革の進捗状況を公表したり業務改善の優良事例を収集・横展開したりすることによる取り組みの促進などが挙げられています。



中教審案の問題点


 以上のように、中教審の最終案には「よくぞ言ってくれた!」と肩を持ちたくなるような記述が多く含まれています。しかし全体をよく見ると、「これはむしろ事態の悪化につながるのでは…?」という懸念を抱かざるを得ないような施策が盛り込まれていることに気づきます。それは何かというと、「一年単位の変形労働時間制の導入」「勤務時間の上限に関するガイドラインの策定」です。前回のブログ記事で詳しく述べたように、これらはいずれも学期中における教員の勤務時間[※3]を引き延ばすものであって、放課後の部活動指導等を合法的な職務命令としたいと思っている教育委員会や校長にとっては朗報でしかありません。


[出典]BMTI「文科省の『働き方改革』によって部活動問題は絶対に悪化する!!


 変形労働時間制の導入と勤務時間の上限に関するガイドライン(以下、上限ガイドライン)の策定によって使用者側への「アメ」が与えられている一方、「ムチ」はあまりにも脆弱です。中教審案に書かれているような「業務の明確化・適正化」の実施はあくまでも各教育委員会および各学校に任されており、仮に取り組まなかったとしても何ら罰則がありません。「時間外勤務は原則として月45時間以内、年間360時間以内に」とうたう上限ガイドラインによって業務の精選がなされるのではないかと期待する声もあるようですが、結局は「ガイドライン」であるため法的拘束力に欠けています。これでは、「見せかけの働き方改革で使用者側に気を利かせている」と言われても仕方がないのではないでしょうか。



「あとは現場の努力次第」で良いのか?


 もちろん、自らにムチを打つような形で、教員の業務の明確化・適正化に向けた抜本的な改革を行なおうとするストイックな教育委員会や校長が存在しないとは言い切れません。そうした教委や校長の登場を期待する声は多く、その代表的な論客として学校業務改善アドバイザーで中教審委員の妹尾昌俊氏を挙げることができます。彼は、上限ガイドラインについて「過労死ライン超えの多い実態からすると、すごく高いハードルである」としつつも「一定の予算はかかるが、不可能でもないと思う」と述べています[※4]。「残業の上限だけを決められても実現は不可能」という福井市教委の学校教育課長や「教育現場にとっては机上の空論」という教育評論家の尾木直樹氏らに対しては、「思考停止モードになっている人が多いのではないか」「できない理由ばかり言うことに長けてしまい、できるようにする方法を探す思考力と実行力が、弱くなっているのではないか」と手厳しい言葉を投げかけています[※5]。中教審案が抜本的な施策を打ち出せていない以上、こうした「各教委・各学校に頑張ってもらわなければ!」という論調は今後ますます広がりを見せていくことでしょう。


 しかし、現実問題として、はたしてどれほどの教委や校長がこの問題に真摯に取り組もうとするでしょうか。取り組むメリットも取り組まないデメリットもほとんどない状況のもとで、わざわざ手間と予算をかけてまでして改革に着手しようと思うでしょうか。おそらく、文科省および社会への説明責任を果たす必要性から、いくつかの目新しい施策がパッケージ化されるに留まるでしょう[※6]。「それは教委や校長の怠慢なのだから、もしそうなったら摘発して問題化すればいい」という意見もあるかと思いますが、使用者側が明確な違法行為を行なっているというわけではないので、BMTIの経験からしても困難です。教員の声を代弁して使用者側と対等に交渉すべき教職員組合(労働組合)も弱体化しており、職場を動かす力に欠けています。この状況で、抜本的な改善に向けた取り組みを徹底させることができるでしょうか。むしろ、変形労働時間制や上限ガイドラインによって教員の働き方/働かせ方がさらに悪化してしまうのではないかと危惧せざるを得ません。



今、本当に必要な施策


 では、どうすれば教員が担う業務の明確化・適正化が進むのでしょうか。まず間違いなく言えるのは、各教委・各学校が取り組みを加速しなければならなくなるような確固たる取り決めが欠かせないということです。きれいごとばかりの作文、強制力のないガイドライン、取り組み状況の公表、これらで現実が変わるのであれば、もうとっくに変わっているはずです。


 具体的には、教員の働き方/働かせ方に関する明確なルールを定め、それを徹底させるべきでしょう。「一人の教員にお願いできるのはここまで」という線引きがあれば、教員の使用者はその枠内でしか教員を使用できなくなります。すると、使用者は「どうすれば最も効率よく教員という人的資源を活用できるだろうか」と考えざるを得なくなり、必然的に業務の明確化・適正化につながります。


 そのためには、何も目新しい施策を打ち出す必要はありません。日本も近代国家である以上、人間の働き方/働かせ方に関する基本的な法律があるはずですから、それを維持・徹底させれば良いのです。(なぜこんな当たり前のことを21世紀に入って久しい今この時分に改めて言及しなければならないのでしょうか…。)維持・徹底のために私たちが必要だと考える施策は、以下のとおりです。






[注]

※1 筆者が中教審の傍聴に行なった後のツイートでもお伝えしたように、実際は文科省の案についてそれぞれの委員がコメントするだけあり、管見の限り「議論」と言えるようなものは行なわれていませんでした。よって、本文中における「中教審案」は限りなく「文科省案」に近いのではないでしょうか。


※2 正式名称は、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(素案)」です。文科省のホームページに全文が掲載されています。


※3 教員には給特法(前回のブログ記事を参照)が適用されるため、時間外勤務は存在しないことになっています。しかし実態としては、時間外も働かざるを得ない状況が一般化しています。中教審の最終案は、それを「自発的勤務」と呼び、使用者が新たに把握・管理すべき「勤務時間」の一部であると位置づけました。この案が通れば、正式な勤務時間外の在校時間等も「勤務時間」であるということになってしまいます。これは給特法の趣旨と矛盾するものであり、使用者による悪用・誤用を招きかねません。


※4 妹尾昌俊(2018)「【学校の働き方改革のゆくえ】月45時間、年360時間まで残業上限の意味とインパクト」より引用しました。


※5 妹尾昌俊(2018)「【学校の働き方改革のゆくえ】残業は月45時間、年間360時間までなんて、絶対にムリか?」より引用しました。


※6 すでに「〇〇教育委員会が働き方改革プランを策定しました」という旨の報道をいくつか目にしましたが、管見の限り抜本的な改善につながるような施策は未だ出てきていません。


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