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勤務時間記録の改ざん等に関する調査結果(中間報告)

更新日:2021年5月21日

2020年11月14日


 こんにちは。代表のYです。今回のブログ記事では、私たちが先月から取り組んでいる勤務時間記録の実態調査について、中間報告をさせていただきます。現在、滋賀県日野町教育委員会による記録の改ざん指示が多くの批判を集めていますが、同じような事象は(規模や態様こそ異なれど)全国的に生じていることが予測されます。また、教員が勤務時間を正確に記録することを妨げている要因には、行政や管理職による改ざん以外にも様々なものが考えられます。以下、これらの詳細を確認したうえで、勤務時間の過少報告の何が問題か(なぜ私たちが問題視するのか)について述べていきます。

 

目次

  • 行政および管理職による「改ざん」の実例が示すもの

  • 茨城県でも改ざんが横行している?

  • 改ざんだけではない「過少報告の要因」

  • 私たちが勤務時間の過少報告を問題視する理由

 

行政および管理職による「改ざん」の実例が示すもの


 11月5日、滋賀県日野町教育委員会が教員の勤務時間記録を一部削除するよう指示していた問題がマスコミ各社によって取り上げられました。下記はMBSニュースによる報道の一部です。

滋賀県日野町の教育委員会によりますと、今年6月に各校の校長らに宛てた文書で、「土日や祝日に学校に出てきて仕事をしたことは時間外労働としてカウントしない」と説明し、教員の勤務時間を報告する際に「土日祝日のデータは削除してください」などと指示したということです。文部科学省の指針では、公立学校の教員が勤務日以外に部活動の指導など学校教育活動に関する業務をした時間は『時間外勤務に含める』ことになっています。 

 現在、文科省指針のもと、教員の「時間外勤務」を月45時間(年360時間)以内に抑えるための取り組みが全国的に行われていますが、この自治体では土日や祝日の勤務を時間外勤務としてカウントしない「取り組み」によって長時間勤務の縮減を図ったことになります。実際、同町の望主昭久教育次長は、「教員の残業時間を県教委に報告しており、上限超過を避けるため安易な指示をしてしまった」(※1)と述べています。今回のように管理側が虚偽の記録を残させるようなことがあった場合、文科省は「信用失墜行為として懲戒処分等の対象ともなり得る」(※2)としています。ネット上では、労働安全衛生法違反等の観点から関係者を厳正に処分することを求める署名運動も始まりました。

 教育委員会による改ざん指示の発覚は今回が初めてですが、個々の学校での改ざんについては過去にも報道がありました。2018年6月に福井市立中学校の教頭による勤務時間記録の無断改ざんが発覚しましたし、直近では今年8月に群馬県立特別支援学校の校長・教頭による記録の書き換え「指示」が発覚しました(※3)。こうした報道がなされる度に、当該事例は「氷山の一角ではないか」と疑われてきましたが、日野町教委の不正が明るみになった今、その疑いはほぼ決定的になったといえます。



茨城県でも改ざんが横行している?


 私たちは、10月末に勤務時間記録の実態に関する調査(対象:茨城県内の公立校教員)を開始しました。予備調査としてのアンケートには既に38件の回答(※4)が寄せられており、その中には次のような記述がありました。

「土曜勤務など、記録に反映されていない」(小学校)
「土日祝日の出勤は全く記録されない」(小学校)
「土日の部活動の時間は把握されていない」(中学校)
「休憩時間が皆無であることを反映していない」(小学校)
「休憩時間が取れていなくても見た目では45分間の休憩をとったことになっている」(中学校)
「超過勤務でなく残業時間でカウントされていて朝の勤務時間が反映されていない」(小学校)
「在校時間の調査しかしないため。校外研修や部活の公式戦は計上されない」(高等学校)
「あまり遅いとカードを退勤にされる」(小学校)
「教頭による、入力・書き直し命令」(中学校)

 これらを見ると、茨城県でも教員の勤務時間記録に関する悪質な運用が横行していることが推測されます。カードを勝手に「退勤」にされたり書き直しを命じられたりといった強引なケースだけでなく、もともと土日・祝日や休憩時間中、勤務時間前、校外での勤務がカウントされないシステムになっているケースも多数確認できます。いずれも管理側による「改ざん」以外の何物でもありません。

 また、今回のアンケート調査では、下図のとおり4割を超える教員が「記録上の時間よりも実際に働いた時間の方が長い」と回答しています(※5)。サンプル数が十分でなく、主にツイッター上で回答への協力を呼びかけた調査であるため、4割という数値がどれほど現実に近接しているかは不明です。しかし、「記録と実態のズレ」が相当に広い範囲で起きていることは確かでしょう。




改ざんだけではない「過少報告の要因」


 アンケート調査への回答をつぶさに見ていくと、記録と実態のズレには管理職による改ざん以外にも様々な要因があることがわかります。例えば次のような記述があります。

「勤務時間が超過すると面談や報告書の記入の必要があるため、仕事が増えてしまう」(中学校)
「80時間以上は校長面談」(高等学校)
「管理職と面談をしないための勝手な修正」(高等学校)
「超過していると面談があるから」(特別支援学校)

 このように、一定の時間を超えると管理職と面談したり報告書を記入したりする必要があるため、自主的に勤務時間を少なく修正しているという回答が散見されます。他にも、以下のような記述が確認できます。

「管理職や事務が少なめに報告している、報告するように教員に要請する」(小学校)
「一定の値を越えると管理職が指導を受けることから、早く帰るように言われており、一方仕事量は多く終わらないため。遅い時間になると、タイムカードを打たずに帰宅し、後日少なく記入する」(中学校)
「タイムカードを正確に切っていると、先輩教員から『自分は自主的に早めに切っている』と言われる」(中学校)
「自主的な土日出勤を計上してはならない雰囲気がある」(高等学校)
「持ち帰って仕事をしている」(小学校)
「実際は持ち帰り仕事をしている」(小学校)
「子どものお迎えのため、基本的に持ち帰り仕事で授業準備等を回している」(高等学校)

 管理職による改ざん「指示」とまでは言えないものの、強力な「要請」によってタイムカードを早めに切ったり持ち帰り仕事で処理したりしている様子が窺えます。次に挙げる記述は、「記録上の時間と実際に働いた時間が一致している」と回答した教員が自身の勤務校について述べたものです。

「記録をめんどくさがってつけない人がいる」(小学校)
「教員個人の勤務時間の正確な記録に対する意識が低い」(小学校)
「先にカードリーダーにカードを打刻したてから残業している教員が一定数存在する」(中学校)
「教員の労働時間に対する意識の低さから正確に記録することを軽視する空気がある」(高等学校)

 ここでは、勤務時間を正確に記録しないことを教員の「意識の低さ」によって説明しようとする傾向が見て取れます。確かに、個々の教員の意識の問題はあるかと思います。しかし、正確に記録しても直接的なメリット(残業代の支給等)がなく、これまでに見てきたような様々な圧力がある中で、個々の教員に「誠実であれ」と求めることに一体どれほどの効果があるでしょうか(※6)。



私たちが勤務時間の過少報告を問題視する理由


 以上のように、今回の予備調査は、公立校教員の勤務時間の過少報告が(少なくとも茨城県では)横行しているのではないかと強く疑われる結果となりました。今後の調査については引き続き検討して参ります。

 最後に、なぜ私たちが勤務時間の過少報告を問題視しているかについて述べたいと思います。それは、「労働環境の是正」にストップをかけてしまうからです。冒頭で取り上げた日野町のように記録の改ざんで(見かけ上の)勤務時間が減ってしまえば、実効性のある取り組みを何ら行わなくても「働き方改革の成功」を謳うことができてしまいます。これまで学校現場における過重労働の犠牲になってきた教員や子どもたちのためにも、そのような事態は絶対に避けなければなりません。また、「改ざん」をはじめとする様々な過少報告の要因が除去されると同時に、圧倒的多数の教員の勤務時間記録が正確であるという確証が得られるまでは、教育委員会等が発表する集計結果を鵜呑みにすべきではありません。




 


※4 勤務校種別では、小学校が9件、中学校が15件、高等学校が12件、特別支援学校が1件、幼稚園が1件でした。

※5 「記録上の時間の方が実際に働いた時間よりも長い」という回答が2件ありましたが、うち1件は個票を見る限り回答ミスであって、もう1件には「他の教員が少なく表記しているため」という理由が付されていました。

※6 「直接的なメリットがない」と書きましたが、勤務時間の正確な記録を残しておくことによって、万が一の場合に公務災害の認定を受けやすくなるというメリットはあります。


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