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東京学芸大学での一大イベントに参加して

更新日:2020年6月5日

2019年7月8日


 こんにちは。茨城部活動問題対策委員会(BMTI)代表のYです。今回の記事では、ちょうど1ヶ月前にBMTIメンバー数名で参加させていただいた「Let’s Think ~みんなで考えるカラフルな教育~」というイベントについての振り返りをしたいと思います。このイベントは、「教員1人ひとりを幸せにする」を目標に昨年12月に結成されたTeacher Aideという学生団体の関東ブロック主催で行なわれたものであり、私たちは何より登壇者の「豪華さ」に惹かれて参加を決意しました。以下、各登壇者による講演の内容について触れつつ、個々のプログラムおよびイベント全体に対する感想を述べていきます。



※この記事は、イベントの数日後に公開できればよかったのですが、茨城県教育委員会への要望書提出およびその回答に関する報告記事(こちら)の作成を優先させたため、このタイミングでの公開となりました。なお、当該記事は先月21日に公開以降、これまでにないペースで拡散されています。私たちのもとには、誠実な回答をしない県教委への批判的なコメントだけでなく、今後の取り組みに向けてのアドバイスも届いておりますので、それらを参考にしつつこれからも積極的なアプローチを継続して参りたいと思います。



「聖職のゆくえ」を見て


 イベント本編は午後からでしたが、午前中には希望者を対象とした「聖職のゆくえ」の上映会がありましたので、まずはそちらの感想を書きたいと思います。「聖職のゆくえ」とは、5月に福井テレビで放送された教員の働き方の問題を取り扱ったドキュメンタリー番組です。この日は福井テレビから特別に許可を得たうえでの上映とのことでした。



 番組は、過労によって教員の夫を亡くした工藤祥子さんへのインタビューで幕を開けました。夫の義男さんが当時抱えていた校務分掌の数は17にも及んでいたとのことで、隣で一緒に見ていたBMTIの教員メンバーでさえ「異常でしょ…」と言っていました。ただ、問題はこれほどまでに異常な業務量を個人に押し付けることができてしまうシステムにあるのだと思います。その一つが間違いなく「給特法」なのですが、当番組はこの給特法が成立した当時のことについて詳しく取材・紹介していました。日本教職員組合(日教組)の関係者へのインタビューによると、当時の日教組が給特法を通したのは、文部省との間で「教員には時間外勤務を強制しない」という確約が取れたからとのことでした。しかし、私はこれは安易な判断だったのではないかと思います。というのも、労使の基本的な力関係の差を考慮すると、使用者側が労働者を「強制」以外の方法で働かせるのはいとも簡単なことだからです(今の学校現場の実態がまさにそのことを物語っています)。やはり、労働基準法の理念に則り、管理職が教員の「自発的」な勤務の分も含めてしっかりと時間管理する体制を構築すべきだと思います。


 もう一つ、当番組で印象に残るシーンがありました。それは、取材対象となった福井県内の中学校における職員会議の場面です。校長は、国が学校に対して求めている「働き方改革」について次のように断言していました――「現場のことを何もわかっていない」。私は、この校長が特別に放埓な人物であるとは思えないので、おそらくこれが大多数の学校現場における正直な反応なのだと思います。校長に「働き方改革」を一蹴されないようにするため、文部科学省や教育委員会は責任を持って必要な財源・人材の確保、そして法制度およびその運用の適正化を図るべきだと感じました。



各講演の振り返り


 さて、午後になると会場の人数も増え、合計で100名ほどの大所帯となりました。いよいよメインの講演会です。私はSTAGE-Aに張り付く形で長沼豊氏と髙橋哲氏の講演を聴きましたので、工藤祥子氏と斉藤ひでみ氏の講演については直接聴くことができませんでした。よって、他のBMTIメンバーからの伝聞を含む形で、各講演の感想をまとめさせていただきます。


当日の配布資料(一部抜粋)

長沼豊氏

 学習院大学教授である長沼氏は、昨今の部活動改革を第一線で主導してきた実績のある方です。その長沼氏も、もともとはいわゆる「BDK」(部活動大好き教員)でしたが、若い先生方によるツイッターでの発信を契機として部活動の問題に気づき、「こっちの方が正しいのでは」と思い直したとのことでした。様々な部活動改革の実例やアイデアについてのユニークかつわかりやすい説明だけでなく、「部活動改革なくして働き方改革なし」「生徒の全員加入制・教員の全員顧問制は廃止すべき」といった力強いメッセージも聞くことができました。


髙橋哲氏

 埼玉大学准教授である髙橋氏は、教育法学の専門家です。この日の講演タイトルは「『給特法』とは何か? ―教師の多忙化と問題の本質―」で、給特法の問題点や矛盾点について理路整然とした解説を聞くことができました。部活動問題に関連する部分では、部活動に特殊勤務手当を支給することの矛盾に関するお話が興味深かったです。埼玉県で現在行なわれている訴訟など、給特法およびその運用を正すための活動は、「教員の経済的利益のためというよりも、教育に必要なお金を国に支払わせるという意味で重要」とのことで、とても納得のいく説明でした。


工藤祥子氏

 上述の「聖職のゆくえ」にも登場した工藤氏からは、主に教員の過労の実態についてのお話がありました。通常の労働時間規制が機能しない状態で働いているがために多くの教員が過労で亡くなっているという報告と、いわゆる「過労死ライン」を決して甘くみてはいけないという警告が印象的でした。「人は生きることを楽しむために仕事をするのであって、死ぬために仕事をするのではない。本来、学校は正しい働き方を教える場であるはずなのに、教員自身がこのような働き方をしていては子どもたちへの誤ったメッセージとなってしまう」という工藤氏の言葉には重みがありました。


斉藤ひでみ氏

 公立高校教員である斉藤氏は、教員の働き方の問題に関する積極的な言動で注目を集めている現役教師です。斉藤氏は、当初は給特法を使って部活動顧問をはじめとする時間外勤務を極力拒否していましたが、現状で拒否が可能なのは一部の「強い教員」のみであると気づき、今は給特法の改廃を訴える活動を主軸にしているそうです。この問題意識は、私たちBMTIとも共通しています。正しい働き方をしている教員が「浮く」ことのないようにするためには、部活動顧問を強制したり強要したりする運用自体の是非が問われなければなりませんし、その他の時間外勤務についても本来は管理職が責任を持ってきちんと把握・管理すべきでしょう。


内田良氏

 名古屋大学准教授である内田氏は、言わずと知れた「学校リスク」研究の第一人者であり、教員の働き方の問題についても積極的な発信を行なっています。この日の講演で最も印象的だったのは、リスクへのリアクションとしての「魅惑モデル」と「持続可能モデル」についてでした。教員の働き方に大きなリスクがあることが明らかとなった今、そうしたリスクを「教職の魅力」の強調によって誤魔化すのではなく、リスク自体にしっかりと目を向けて減らしていかなければならないと感じました。「問題があるのは一部だけ」とか「一部の人の問題にすぎない」という過小評価は非常に危険であり、そもそも社会問題や教育問題とは一部の人や場所に限定された課題を皆で考えるものである、と内田氏は以前「AERA」の記事でも述べていましたが、改めてまさにそのとおりだと思いました。



「Teacher Aide」という希望


 最後に触れておかねばならないのが、これほどまでに豪華な登壇者を集め、当イベントに100名ほどの参加者を動員することに成功したTeacher Aide(TA)の組織力についてです。彼ら自身もまた、全国各地に支部を持つ大規模な学生団体です。「数は力」という言葉があるように、何か大きなことを実現するためには些細な違いを乗り越えて多くの人間が協同する必要があります。6月8日は、まさにそうした期待に胸を膨らませることができた一日となりました。


 イベントの終わり際には、TA共同代表の「じんぺー」さんからTAの概念化についての話がありました。つまり、団体に属しているかどうかにかかわらず、「教員を支援したい!」という思いを持ってさえいれば誰もがTAの一員であるということです。このような考え方・発想はとても大事なことだと思います。一つの大きな潮流の一翼を担う者として、私たちBMTIも今後さらなる努力を重ねていくつもりです。


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